開発組織における技術戦略の立て方3つの落とし穴と対応方法
技術戦略が形骸化している、本当の技術戦略の立て方がわからない
技術戦略書は技術組織、開発組織にとって門外不出の大事なもの。だから他社がどういうものを作っているかは意外とわからない。自社の技術戦略をしっかり立てたいが、なんだか形骸化しているように感じる。時間がないし本当の立て方も実はよくわからない。技術戦略の立て方をしっかり学びたい。
様々な企業で技術戦略立案を実施してきた経験で、このような疑問にお答えします。
本記事のテーマ
技術戦略の立て方3つの落とし穴と対応方法
本記事の内容
- 技術戦略の基本構造と立て方基本
- 技術戦略3つの落とし穴と対応方法
- 戦略立案スキル強化方法
技術戦略の基本構造と立て方基本
戦略という言葉は、当たり前のように使われていると思いますが、「戦略」って何かと聞くと、色んな答えが返ってきます。
戦略って何でしょうか?
「戦」という字が使われているくらいなので、実は戦略とはもともと戦争のための言葉なのです。
それが企業間の競争にも使われるようになったという背景があります。
つまり、戦略とは戦いに勝つため、競争に勝ち抜くための策略なのです。
戦略という言葉が、間違って使われることがあります。
大手企業のトップですら、間違った使い方をすることもあります。
良くある間違いは、高い目標を立てることを戦略と勘違いすることです。
目標を立てることと、戦略とは全く次元が違うことです。
また、たくさんある課題や問題点に一つずつ対処しようとすることも戦略とは程遠いことになります。
戦略とは、戦いを一気に決めてしまうような、そんな驚きを伴うものです。
織田信長の桶狭間の戦いのように、圧倒的優位な今川軍の縦に長い隊列を、横からしかもそんなところから攻めてくるとは考えられなような急斜面から、大将のいる場所めがけて少数で攻め入って、一気に勝負を決める、そういう考え方が本当の戦略です。
誰もが思いつかないけど、後から聞けば誰もが納得する。そして勝負を決めることが出来る。
そんな考え方を個人としても組織としても身につけたいものです。
さて、戦略の大きな捉え方は以上として、組織のおける戦略、あるいは戦略書について考えていきます。
「戦略」の基本構造は以下の通りです。
- 診断(分析)
- 基本方針
- 行動
診断(分析)は、現状を正確に客観的に把握することで、正しい戦略を作るためにとても重要なものになります。
3C分析やSWOT分析などが有名ですが、他にファイブ・フォース分析などもあります。
自社の置かれた環境(競合や顧客)と自社自身も客観的に見直します。
診断(分析)を行って、現状を正しく認識したら、そこから戦略の基本方針を立てます。
この部分を狭義には「戦略」と言っているのかもしれません。戦略のコアになります。
戦略のコアである基本方針を立てるときに重要なことは、基本方針が実際に行動に結びつくことです。
基本方針に基づく行動を、戦略と区別して戦術と言うこともありますが、ポイントは、行動に繋がって始めて戦略になるということです。
なので、広い意味で「戦略」の基本構造に行動を含めています。
戦略の立て方は、上図のように、目標と現状を認識して、そのギャップを埋めて高い確率で現状から目標に到達するための方法を考えるのが戦略なので、手順としては、
- 目標を立てる
- 現状を分析する(3C、SWOTなどを使う)
- ギャップを埋める基本方針アイデアを出す
- 基本方針からの行動を考えて、基本方針を精査する
- 戦略(行動)の実行
ということになります。
技術戦略3つの落とし穴と対応方法
技術戦略や経営戦略策定で陥りやすい落とし穴は、下記の3つです。
- 目標を戦略と間違える
- 診断(分析)での情報が少なすぎる
- 競合を追いかける基本方針
順番に内容と対応方法を説明していきます。
目標と戦略を間違える
大企業といわれる会社の経営陣の中にも、高い目標を立てることが戦略だと勘違いしている人が実際にいます。
企業が出す中期経営計画などを見ても、美辞麗句が踊り中身のない戦略をみることが度々あるのは、戦略ということを真に理解していない経営層の人間が少なからずいることを示しています。
上層部へきちんと上奏することが最も望ましいですが、上司も人間であって批判を受けたと思われては、自分にも得にならないし、会社にとっても損なことです。
対応方法としては、経営層から「目標」が「戦略」として落ちてきたときには、実際の行動計画(これは現場が作る場合が多い)に、本当の戦略を含めて現状と目標のギャップを埋める行動計画を立てることだと思います。
実際に、優秀な中間管理職はこの方法で会社の危機を救います。
診断(分析)での情報が少なすぎる
戦略策定で、戦略の良しあしを左右するのは、診断(分析)の内容です。
診断(分析)の内容が間違っていたり、陳腐であったり、形骸化していると、優れた基本方針が生まれません。
戦略を年度ごとにローリングしていく場合に、診断(分析)作業に手を抜いて結果ありきの戦略書を作る場面も多数見てきました。
特に他社情報、顧客情報を正確に取得するスキルは、会社によって大きな差があります。
これに対応する方法は、診断(分析)作業の中で、「足りない情報」を分析内容に入れることです。
集まった情報がすべてではないという前提を持ち、「わからないこと」をリストに加えるという作業を追加してください。
このことによって、戦略行動に「xxの情報を獲得する」という計画が含まれてきて、時間軸のなかで戦略そのものが改善していくプロセスに変革していきます。
競合を追いかける基本方針
戦略策定というのは、集まった情報をもとにして、”人”が考えるものです。
”人”が考えるものだから、間違いは付き物とも言えます。
競合分析で、市場の多様性を背景に以下のような事実が報告されたとします。
- A社は、xx層を狙った高級志向で売り上げを20%伸ばしています。
- B社は、yyブームを背景に若者向けショップを出店し好調です。
このような報告から、市場の動きを聞くと、その動きを追いかけたくなるものです。
実際に、自社の収益低下などの状況で、利益回復のためになりふり構わずに競合を追いかける戦略をとるケースも目にします。
戦略はあくまでも経営判断ですので、どの考えが正しいかのジャッジを早計にはできません。
ただし、競合を追いかける戦略は一旦とると、追いかけ続けることになりかねません。
強く勝つための戦略策定は、様々な角度から、自社、競合、市場(顧客)を分析して勝ち筋を見つけるアイデアを出していきます。
競合を追いかける戦略になりがちな状況は、自社や競合の現状を注視しすぎることから起きることがあります。
対応方法は、3C分析のときに、自社の動向、競合の動向、そして顧客の動向という形で、時間軸での動きに注目することで、診断(分析)が現状に留まらないようにすることです。
現状ばかりを見るのは、現状から未来にかけて世の中は変化しないだろう、あるいは変化して欲しくないという想いが、多くの人の心の奥底にあるからかもしれません。
もちろん、未来を予測することは簡単ではありません。
しかし、本当に競争に勝つための戦略は、現在から未来への変化を正確に予測するほど、精度の高い有力な戦略になるわけです。
だから、戦略を立てるためには、自社、競合、世の中の動きを過去から現在、そして未来への動きを予想して立てる必要があるということです。
技術戦略を立てる際に陥りやすいポイントは理解いただけたでしょうか?
これらの問題に対処するためには、戦略ということを正しく理解し、戦略を立てるための分析手法、戦略アイデア発想法などを身につけ実践する力、すなわち戦略立案スキルを強化する必要があります。
戦略思考
参考資料: 「製品開発組織における技術戦略書の書き方」
戦略立案スキル強化方法
戦略は、企業の競争力を決めるものです。
競争力は、すなわちその企業の収益性そのものを表します。
強い企業になるためには、多くの社員が戦略的思考を身につけて、正しく強力な戦略を立てる必要があります。
そして、戦略思考は、戦略ということを正しく理解し、競争環境、すなわち自社、競合、世の中の動きを正確に分析し、分析結果からシンプルで驚きの策略を見つけるアイデア発想力を持つことを指します。
戦略立案スキルを強化するということは、戦略思考を身につけ強化するということです。
組織として戦略立案スキルを強化するにしても、まずは数人のキーマンが戦略の本質を理解し、自社の戦略立案の問題点を的確に把握し、さらに対応方法を習得する必要があります。
弊社では、企業の中長期経営計画、技術戦略立案に従事してきた経験をもとに、戦略立案スキル強化セミナーを開発しました。
自組織の戦略思考を強化するために、ぜひご参加ください。
上記で示した3つの落とし穴の回避策を体得するとともに、戦略的な思考を身に着けることができ、自社の技術戦略策定に即効果が表れます。
セミナーの目的
「戦略」の本質を理解し、良い戦略と悪い戦略を識別できるようにする
戦略立案の課題と対応方法を演習によって体得する
セミナー概要
- 戦略の理論
- 良い戦略と悪い戦略事例学習<演習>
- 戦略と3C、SWOT
- 時代の流れを読むフレームワーク<演習>
投稿者プロフィール
- フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。
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フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。