会社から自立したエンジニアになるためにやるべきこと
私は自分がエンジニア(技術者)であるから、技術者のことが好きです。
技術者は、もっと社会の中で活躍すべきだし、今よりももっと活躍できるはずだと思っています。
日本企業が世界で輝いていた1970年代、80年代から半世紀近くがたって、当時に比べて、エンジニアが活躍しにくくなっているように思います。
長い時間を使って負のスパイラルが今の危機的状況を作り出したとすると、しっかりと根本的な治療をしないと早期回復は望めないと思っています。
エンジニアが自立して、世の中で活躍していくためにどうするか、考察していきます。
製品全体のことを知らないエンジニアの悲劇
製品システムが肥大化し、複雑化する中で、一人のエンジニアの役割は小さくなっています。
これにはもう一つの背景があって、製品開発の効率を求めるために、19080年代後半くらいから、多くの企業が機能別組織とプロジェクト推進型組織を組み合わせたマトリクス型組織に移行していきました。
ユニット別、機能別の専門組織を作って、XXの専門家をたくさん作ることで、複数の製品ラインナップを効率的に開発しようとしたのです。
大量生産のために、細かく分業化し流れ作業にしていくのと、結果的には同じ発想です。
おそらく、ある意味、技術の専門家を作るのは、会社にとっても良いことだと考えたのだと思うのですが、これによって、製品全体を見渡せるエンジニアが減少していくことになります。
かつて、プロジェクト推進型の組織で開発していた時には、全員が一つの製品、機種に専念することで、たとえ製品の一部しか担当していなくても、隣で別のエンジニアが別の部分を苦労して開発しているのを横目で見ているだけで、製品開発として何が起きていて、どんなことが必要かを身をもって体験することができます。
一方、専門家集団の中にいて、機種開発に参加しているエンジニアは、専門家集団への帰属意識は高くなりますが、ひとつの機種に対する注目度は高まりません。
専門分野で自分を伸ばすことには興味を持ちますが、製品の中の他のユニットや機能には関心がなくなって、製品開発全体で何が起こっているかがわからなくなります。
そして、製品全体、ユニット間、機能同士のつながりについて理解できないエンジニアだけが育っていきます。
さらに、そんな状況で入ってくる新人は、全体のことを知らない先輩から教育されていって、いつの日か製品全体を知ることの必要性さえ、だれも言わなくなっていきます。
これは、会社にとっても、エンジニア個人にとっても、悲劇としか言えないと思います。
会社に人生を決められてることに気づかない悲劇
このように、機能組織が進んでいき、会社としては製品開発の効率化が出来て、既存事業の安定という面で満足した状況が続いていきます。
会社経営として、まあまあ満足な状態が続けば、会社の環境を変えようとしませんよね。
XXの専門家というエンジニアが幅を利かせてくると、出てくるアイデアは、XX機能の改善ということばかりになっていきます。
製品全体を知らない人たちに、新しいアーキテクチャなど作れるわけもなく、新しいコンセプトは生まれにくい状態になります。
この状況は、単に専門知識の狭さだけの問題ではなく、小さな仕事しかしていない先輩についた新人は、より小さな仕事、雑用ばかりを頼まれることになります。
生産の流れ作業の人たちは、言われたこと、与えられた仕事をこなしますが、技術開発においても同じことが起きます。
つまり、上から言われた仕事をこなせばいいという体質になります。仕事は上から与えられるもの、というのが組織内の常識になっているので、多くの人が「考えない」で、言われた仕事をこなす人たちになっていきます。
これは、本人のせいとばかりは言えなくて、環境によってそうなってしまったという所が大きいとは思います。
入社5年目から10年目くらいの中堅社員は、上から仕事を与えられなければ、何をやったらいいかが判断できません。そして、そういう状態であることに疑問すら抱かなくなっていきます。
もっと悲惨なのは、中堅だけでなく、ベテランと呼ばれる人たちも、会社の外のことをほとんど知らないのです。
一日一日の仕事が、すべて与えられたもので、外の世界で起きていることを知らずに何年も経ってしまうと、これは人生そのものを会社に依存していると言わざるを得ません。
私は、5回の転職をするなど、たまたま世の中の動きを嫌でも見れる立場にあったのですが、特に日本の大企業にいる人には、こういう傾向が強い人たちが実にたくさんいます。
日本企業が元気がないということも問題ではありますが、私は、もともと優秀なエンジニアが、会社組織に埋もれていって、それに気づかずに長い時間を無駄にしてしまうことを本当に残念に思っています。
自分のことは自分で守る
このような状況を打破するには、会社から自立したエンジニアになるためには、エンジニア自身がこの状況に気づいてもらわなければ始まりません。
そして、自分のことは自分で守る、という考えを持っていただくしかないと思っています。
そのための近道は、自分独自のコンテンツ(得意分野)を持ち、それを育て続け、世の中で役に立つキラーコンテンツにしていくことです。
エンジニアとして技術を磨くには、まずは他者から学び、学んだものを自分のモノに変え、自分独自なものに変化させていきます。
そしてやがて他者を超え、突き抜けたものを持っている人になり、そのコンテンツを他の人に教えるようになり、教えたことで感謝されるようになれば、それがキラーコンテンツを持つということです。
キラーコンテンツを持てば、会社に依存することがなくなります。
どこへ行っても通用するエンジニアになるわけです。
コンテンツをキラーコンテンツに育てるためには、今いる世界(主には会社内)の外の世界を知る必要があります。
今の世界の尺度でコンテンツを考えないことが重要です。
参考記事: 「エンジニアは誰にも負けないコンテンツを一つ持て」
さらに、自分で自分を守るために、私はすべてのエンジニア、技術者の方たちが、ものごとの本質を見極める思考プロセスを築き、論理思考力を向上させることだと思っています。
今の世の中は、情報が氾濫しています。正しい情報と間違った情報が入り乱れています。
自分の中の思い込みを出来るだけ排除して、拡散する情報から正しい情報を引き出す力こそ、これからのエンジニアにも必要なことだと私は堅く信じています。
フューチャーシップのスキルアップ講座は、知識だけでなく、論理思考力をはじめとする「考える力」を増強させることにフォーカスした技術者向けの教育プログラムを提供しています。
まずは、プログラム内容をご覧いただき、「考える力」、「自分を守るための」自身の育成プランを考えてみてください。
人事制度としてキャリア設計を支援する
企業として、技術者の育成を強力に進めるために、人事制度を設ける場合があります。
ただ、多くの企業の人事施策を見ると、人事考課面談と同時に、1年後、3年後などのありたい姿を文章化し、ありたい姿を達成するための学習計画、人事が設定した育成プログラムの受講計画、外部セミナーなどの予定を書いて、それらを支援しようとするものが多いと感じています。
座学で学ぶことを否定するわけではありませんが、これだけで本当に育成目標が達成されるかは疑問があります。
ありたい姿が抽象的なままだと、行動計画も甘くなり、また、実績との差からの学びが少なくなります。
目標を具体的なものにすること、本人が自分事になること、そして計画遂行の経過でPDCAが回せることが必要です。
フューチャーシップは、人事の立場で、成果が確実に出る人材育成の制度化を支援することが出来ます。
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トヨタのリーン製品開発手法の本質を捉え、
若手エンジニアのモチベーションによる改革を目指し、
トヨタの真似でない独自の世界観で
組織改革に挑む姿を描いています。
詳しくは、「製品開発組織の常識をぶち壊せ!!」出版のご案内を参照ください。
投稿者プロフィール
- フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。
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フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。