組織マネージャーに戦略思考を身に着けさせる方法

 

組織マネージャーのリーダーシップの底上げをしたい

会社を改革していくために先頭に立つべき組織マネージャーのリーダシップは経営者から見て満足できるレベルだろうか?優秀なマネージャーもいれば、そうでない人もいそうだ。マネージメントの全体レベルを底上げすることで組織力を向上させたい。組織マネージャーに戦略思考を身につけさせるにはどうしたらいいか知りたい。

 

リーダーシップを発揮して成果を出すには、知識だけではなく、判断力、行動力、他人を思いやる心など、様々な能力を身に着ける必要があるが、リーダーシップのレベルを上げる即効性のある能力向上策は、戦略思考力の向上であると経験から申し上げたい。

戦略思考力とリーダーシップを結び付けて、マネージメントのレベルを上げるために、以下の能力開発をお勧めする。

  • 状況を客観的、かつシンプルに分析する力
  • 分析結果から、シンプルでわかりやすく正しい判断をする力
  • 自身の判断を現場が実行可能な状況を作り出す力

 

 

本記事の内容

  • 戦略思考の落とし穴
  • 正しい戦略思考プロセス
  • 戦略思考力の鍛え方

 

 

戦略思考の落とし穴

 

組織マネージャーが持つべき戦略的思考で、陥りやすい間違いがいくつかある。

  • 目標を戦略と取り違えてしまう
  • 重要な問題を取り上げないで出来ることに注力してしまう
  • すぐにソリューションに飛びつこうとする
  • 対処療法に走って、モグラたたきになる

思い当たるところはありませんか?

このような陥りやすい間違いについて、一つひとつ見ていきます。

 

目標を戦略と取り違える

実は、この間違いは非常に多いと思います。

大手企業のトップですら、この手の間違いをします。

高い目標を掲げることは経営者として当然だし、大事なことですが、高い目標=戦略と考えてしまう経営者も、残念ながらいらっしゃいます。

「俺が目標を立てて、実行するのが社員たちだ。」なんて実際に口に出す経営者を何人か見たことがあります。

 

高い目標が、なぜ今実行できていないのか、現状と目標とのギャップをどう埋めるかを考えるのが戦略です。

また、戦略は結果をコミットするものではありません

高い目標を達成する確率を高めるのが、良い戦略です。

逆にコミット(約束)できるような目標は、誰でも達成できるものであって、達成可能な簡単な目標を掲げることは経営としてはマイナスです。

チャレンジして、出来るだけ目標に近づける、あわよくば目標を上回って成果達成を社員全員で分かち合うというのが正しい姿です。

 

重要な問題を取り上げない

優秀なマネージャーとそうでないマネージャーではっきり分かれるのが、何を重点の課題と捉えるかということです。

大事な問題に目をつぶる、あるいは実際に気づかずに、出来る問題から手を付けようとする場合があります。

また、部分最適と全体最適という見方があって、優秀でないマネージャーは、部分最適に注力する傾向があります

全体、つまり全社にとって何が大事なのか、自部門と他部門の境界を越えて、最も重要な問題に取り組もうとするかどうかは、会社の業績に直結します。

 

優先順位という表現もあるかもしれません。

優先順位の判断は、必ずしも正解があるとは限りません。

課題解決の順序ということもあります。

 

ただ、経験上、優秀でないマネージャーは、時折、重要な問題の存在すら見失うケースがあります

ひどい場合は、部下から指摘されても、自分の考えを通して却下してしまいます。

 

すぐにソリューションに飛びつく

これは、実は多くのエンジニアが陥りやすいことです。

かくいう私自身も、現役時代はソリューションに飛びつこうとする傾向があったと認めざるを得ません。

なぜダメなのか、と聞かれることもありますが、これは情報の分析ということを十分に行わずに結論を出してしまうことによって、間違った判断をしやすくなってしまうということです。

ソリューションにすぐに飛びつく問題は、次の対処療法とも関係があります。

組織内で起こる問題は、実は複雑に絡み合っていることが多く、問題として捉えられるのは、表面上で起こっている”現象”である場合が多いと思います。

悪い現象を引き起こす本質的な原因は、多くの場合、複数の問題を連鎖的に引き起こします。

つまり、すぐにソリューションに飛びつくことで、この本質的な原因を見逃してしまうのです。

 

ソリューションを考えること自体は悪いことではありません。

問題の根本原因をしっかりと掴んでから、ソリューションを考えるという手順を踏むことが大事だと思っています。

 

世の中に蔓延する情報には、「事実」だけではなく、その出所が怪しい情報がたくさん含まれています。

「事実」と、「誰かの意見」、あるいは「まだ仮説にすぎないこと」をしっかり区別しなければ、間違った判断をしてしまいます

ソリューションに飛びつくとは、ある意味、情報の精査が終わってない段階で、とにかく答えを出そうとする行動になります。

 

優秀なマネージャーほど、冷静に根本の原因、問題の本質を捉えるまでは、答えを出さないものと考えてください。

 

対処療法に走って、モグラたたきになる

ここまで話してくると、もうお分かりかもしれませんが、優秀でないマネージャーは、思いつきで手を打っては失敗し、それを何度も繰り返してモグラたたき状態に陥るケースが多いと思います。

単に考えが足りなくてうまく行かないケースや、副作用が起きてあちらを立てればこちらが立たずのような状況が起こったり、予期しない障害にぶち当たったりして、引き返します。

試行錯誤すること自体は問題ないのですが、もう少し冷静に考えればわかることを、とにかく思いついたことをやって失敗するのです。

アイデアを具現化するときには、試行錯誤を繰り返すことで、今まで出来なかったことを発見してイノベーションを起こす、ということがあります。

試行錯誤も、場合によりけりということでしょうか?

 

仮説検証という言葉があります。

仮説をしっかりと立てて、仮説を証明するための評価や実験を行います。

対処療法を行うときに、この仮説をしっかりと立てていれば問題ないのですが、優秀でないマネージャーは、現象を押さえることを重視したアイデアを出します。

つまり、仮説が浅いのです。

 

さらに前述したように、起こっている現象と本質的な問題は別である場合が多いのです。

対処療法は、起こっている現象に手を打とうとする場合が多いのですが、実はそれは本質的な問題ではないことが多いということなのです。

また、根本原因は複数の現象を連鎖的に引き起こすことが多いのですが、つまり、本質的な問題に手を打てれば、複数の問題を根本から解決できるのに、あえて、すべての現象に上辺の手を打とうとするので、かえって混乱してしまいます。

 

本質を観ようとしない、見失ってしまうのが、落とし穴だということです。

 

正しい戦略思考プロセス

 

戦略思考プロセスとは何かを話す前に、そもそも「戦略」とは何かをお話します。

前項でもお話ししたように、企業経営には高い目標を設定することが大切です。

そして、戦略とは、

  • 高い目標
  • 現状分析

のギャップを知り、ギャップをどのように埋めるかという「方針」を決めて、その方針を実行することです。

 

良い戦略の基本構造

良い戦略は、下記のような基本構造から成り立っています。

  • 診断・分析
  • 基本方針
  • 行動

診断・分析

診断・分析は、現状分析と今後の動向分析、目標の設定を行います。

現状分析と今後の動向分析は、

  • 自社(Company)
  • 競合(Competitor)
  • 顧客(Customer)

の3つの視点での分析(3C分析)と、

自社についてさらに深く、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を分析するSWOT分析などが有名です。

3C分析、SWOT分析を踏まえて、自社の目標について、トップの想いの妥当性を検証し確定します。

 

基本方針

戦略の核となる部分で、現状から目標を高確率で達成するための基本方針を決めます。

基本方針を導く方程式やフレームワークは存在せず、これは戦略を当てる人間の醍醐味となります。

織田信長の桶狭間の戦い、ネルソン提督のトラファルガーの海戦など、歴史的に衝撃的な結果をもたらした戦いには、シンプルでかつ驚きの戦略があったと言われています。

一点集中、しかも誰も思いつかない奇抜さと、そして実行可能な方針が、大きな勝利を導きます。

勝つ確率の高い、あるいは負けない戦略の基本方針を立てられる人材は、会社を救うことが出来るのだと思いますが、この基本方針には正解というのがないため、この戦略立案についての間違った考え方が広まってしまうのかもしれません。

 

行動

良い戦略は、現場が迷わずに行動できることが条件だと思います。

反対に、実現できない基本方針は、意味を持たないということです。

現場が理解できないような難しい、そして複雑な基本方針は失敗に終わる可能性が高くなります。

敵は思いつかないけど、味方に指示すれば簡単に理解できて、間違えずに実行できることが良い戦略の条件です。

 

正しい戦略思考プロセス

戦略思考プロセスで大事なことは、現状分析を正しく行うことです。

そして、戦略思考プロセスは、

  1. 現状を正確に分析・診断する>
  2. 適切な目標を立てる
  3. 基本方針を決める
  4. 基本方針を行動計画に落とす

 

ということになります。

戦略思考の落とし穴で説明したように、このプロセスに反して、すぐにソリューション、つまり上記で言うところの基本方針を決めようとするのが、悪いプロセスということがわかっていただけると思います。

正しい戦略思考プロセスを身に着けるには、上記手順の思考プロセスを身に着けるということです。

 

現状を正確に分析・診断する

正確な分析・診断のためには、情報を精査する能力が必要です。

「事実」、「仮説」、「意見」を見抜く力がないと、不正確な情報から間違った分析をしてしまいます。

また、情報不足に対する感度も上げる必要があります。

情報が不足している、あるいは曖昧な情報を放置して、集まった情報のみから無理やりに分析結果を出すようなことも、現場では起こりやすいのですが、戦略リーダーはこのような状況を許してはいけません。

情報が足りなければ、それをジャッジして追加情報を集めるという行動をすることが大切です。

 

適切な目標を立てる

目標は自分本位に立てるものではありません。

企業の最終目的は、儲け続けることです。

儲け続けることに繋がらない目標を立ててはいけないこと、競争相手も動いているということ、そして顧客も変化していることを理解して目標を立てる必要があります。

分析で、現状分析と今後の動向分析をするのはこのためです。

時代の流れを分析することで、目標を決定していきます。

こうなりたいという希望的な目標に、自社、競合、顧客の変化を予測して、目標を確定します

 

基本方針を決める

すでにお話ししたように、分析から基本方針を決める方程式はありません。

目標達成のためのシナリオを、他社が気づかない、かつシンプルで驚きの方針を立てることが重要です。

この思考力をつけるのは簡単ではないのですが、分析の質を上げることで、アイデアの質を上げることが出来るとここでは申し上げておきます。

 

基本方針を行動計画に落とす

実行できない基本方針は絵に描いた餅です。

実行可能な計画に落とすこともマネージャーの役割です。

基本方針そのものが複雑すぎると、計画も複雑になり、成功確率が落ちることもあり得ます。

基本方針はシンプルな方が良いのは、そういう背景もあります。

一旦計画が出来た後の実行は、PDCAを回して目標に向かていきますが、この段階ではプロジェクトマネージメントのノウハウが必要になります。

 

戦略思考力の鍛え方

 

組織マネージャーのリーダーシップを組織全体で底上げするには、マネージャーの戦略思考力を鍛えることが有効です。

弊社では、戦略思考力を鍛えるための方法として、以下の2つのステップを推奨しています。

  1. 戦略立案のプロセスを学ぶ
  2. ロジカルシンキングのトレーニングをする

 

戦略立案のプロセスを学ぶ

戦略の基本、戦略立案を3C、SWOT分析から導く手順などを体得いただける半日コースのセミナーを提供しています。

まずは、戦略についての正しい知識を身に着けます。

戦略立案スキル向上セミナー

概要:

戦略の基礎理解、良い戦略の構造を理解するとともに、間違った戦略、悪い戦略の例を理解し、様々な分析手法と分析から良い戦略を導く、正しい戦略立案のプロセスを演習によって習得するセミナーです。

 

 

ロジカルシンキングのトレーニング

分析の質を上げる、また、アイデアの質を上げるために、ロジカルシンキング、つまり論理思考力を強化することが非常に有効です。

なぜなぜ」を考える習慣によって、ものごとの本質にたどり着くための思考プロセスを習得します。

また、「だからどうなるの?」という因果関係ロジックで考える癖をつけることで、思い込みを排除し、足りないロジックを見つけることで、分析力を向上することができます。

弊社で、半日の論理思考力向上セミナーを提供しています。

概要:

TOC(制約の理論)の思考プロセスの概要を学ぶことで、ロジカルシンキングの基礎を学び、TOCで使う対立解消図を作成する演習によって、ものごとの本質をシンプルに的確に、思い込みを排除して捉えるトレーニング方法を学びます。

 

 

組織マネージャーの育成やスキルアップは、会社にとっても非常に重要なテーマです。

また、戦略立案のスキルは、マネージャーの個人的な資質アップよりも、組織として強化すべき内容でもあります。

弊社では、製品開発組織の戦略立案のコンサルティングサービスを提供しています。

 

 

開発組織の戦略立案3つの重要要素を理解する | フューチャーシップの製品開発革新支援

戦略の重要要素は、診断、基本方針と行動です。診断、つまり自己分析は手前味噌にならないよう、本質的なアプローチが必要です。フューチャーシップは、3C、SWOTだけでな…

 

 

投稿者プロフィール

賀門 宏一製品開発革新のプロパートナー
フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。
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