一流のプロジェクトマネージャーになるために学ぶこと
プロジェクトマネージャーとして成功する秘訣を知りたい
製品開発プロジェクトにおいてプロジェクトマネージメントの役割は非常に大きく、プロジェクトそのものの命運を左右します。しかしながら多くのメーカー企業では、プロジェクトマネージャーとしての育成方法が確立しておらず、プロジェクトマネージャーに育成も個人任せになっています。プロジェクトマネージャーとして成功したいのですが、一流のプロジェクトマネージャーとして認められるためには、どんな勉強をして、どうやって自分を伸ばしたらいいかを教えて欲しいです。
グローバル企業で、国内、海外の製品開発現場で多数のプロジェクトを完走させ、ヒット商品を世の中に送り出すとともに、製品開発組織を改革してきた経験から、知識面、能力面の両方の観点で必要なスキルセットについてお話ししていきます。
結論から言うと、一流のプロジェクトマネージャーになるためには以下を学び実践することです。
- プロジェクトの「不確実性」の内容とその扱い方の実践を学ぶ
- ロジカルシンキング(論理思考力)の強化で必要な能力を鍛える
- リーン開発など、成功している手法の意味を理解し活用する
本記事の内容
- 必要な知識を効率的に学ぶ
- プロジェクトマネージャーとしてのスキル開発
- リーン開発手法を活用したプロジェクト管理
必要な知識を効率的に学ぶ
プロジェクトマネージャー育成を考えるとき、まず前提条件として、プロジェクトの管理ツール、パート図、ガントチャートなどを使ってスケジュールを立てたり、スケジュールを管理するということは知っているものとして話を進めます。
プロジェクトマネージメントというのは、一言でいうとプロジェクトを計画通りに進める責任を負うことです。
プロジェクトを計画どおりに進めるというときの、計画とは、品質面(Q)、コスト面(C、製品コスト、開発費の両面)、そして日程面(D)での計画を指します。
プロジェクトマネージャーは、Q、C、Dのすべてを管理していかなければなりませんが、品質目標が達成できなければ、結果的に余計な時間を使って品質をリカバリーしなければなりません。製品コストが達成できてない場合も同様で、開発スケジュールが遅れたり、そのことによって人員を増強したりすることで開発費がオーバーすることになります。
では、プロジェクトが計画通りに行かない、ということが具体的にどういうことかを考えてみます。
プロジェクトとは、通常、これまで無かったものを創造するということです。
工場の生産ラインのように、すべての人が決まった作業を決まった通りに実行するということとは違って、わからないこと、チャレンジすることがたくさん含まれているのが普通です。
つまり、「不確実性」があるということです。
プロジェクトマネージメントとは、この「不確実性」を管理することに他なりません。
プロジェクトマネージャーとして必要な知識は、プロジェクトの「不確実性」が何かを知ることと、「不確実性」を扱うためのツールやノウハウを知ることだと思います。
この「不確実性」のことを「リスク」ということもあります。
そして、この「不確実性」、「リスク」がどこからやってくるのかを知ることがプロジェクトマネージャーとして必須の知識であり、この「不確実性」、「リスク」を深く理解した上で、どうやって計画を立てるのか、どうやって計画がずれないような日々の管理をするのかが、プロジェクトマネージャーの仕事のすべてであると言えます。
不確実性は、次のような項目から生まれてきます。
- 品質目標(高いほど不確実性も高い)
- 製品コスト目標(低コストを狙えば不確実性も高い)
- 日程目標(短い日程ほど付加う実性も高い)
- プロジェクトの範囲(スコープの広さ)
- 要員数、要員の質
- コミュニケーション
- 部品調達
- 関連業者や関連部署との連携
- 予測できない事態
PMBOK (Project Management Body of Knowledge)というプロジェクトマネージメント協会(PMI)が発行している「プロジェクトマネージメントの知識体系」の中で、これら不確実性について説明されています。
企業によっては、このPMBOKを学習することを推奨されていて、PMIが行うPMPという資格を取ることが、良いプロジェクトマネージャーとしての証のように考える企業もあるようですが、知識ガイドを使って学ぶよりは、現場で起っているプロジェクトの「不確実性」の本質を実践で学ぶ方が効率的だと思っています。
ツールの使い方や、ツールからの情報に対する考え方や施策の打ち方ではなく、「不確実性」ということの本質を自分の頭で考えることの方が意義深いことだと思っています。
プロジェクトの本質を追及したCCPM
プロジェクトの本質を現場以外で学ぶ方法として、特におすすめしたいのは、クリティカルチェーン・プロジェクトマネージメント(CCPM)を学ぶことです。
CCPMは、制約の理論(TOC)の考え方をプロジェクトマネージメントに適用することで生まれた手法なのですが、プロジェクトの本質、「不確実性」についての洞察、そして人間の行動の特質をしっかりと捉えた、実践的な手法です。
この手法は、TOC(制約の理論)を生み出したエリヤフ・ゴールドラット博士によって発案され、彼の著書「クリティカルチェーン」でその内容が解説されています。
「クリティカルチェーン」の内容をCCPMの手法にフォーカスして解説した記事があるので紹介します。
参考記事:「クリティカルチェーン」から学んだプロジェクト管理
PMBOKのような体系的な知識を学ぶことも無駄なことではありませんが、早く確実にプロジェクトマネージャーとして大成するためには、実践に則した学びの方が効率的であり、おすすめです。
「不確実性」の本質を追及し、「不確実性」をどのように扱うかというテーマを自分の頭で考え抜くということを実践してください。
プロジェクトマネージャーとしてのスキル開発
一流のプロジェクトマネージャーに求められるスキル、つまり能力はどういうものでしょうか。
多くの企業では、製品開発技術者の中から経験とセンスを見ながらプロジェクトマネージャーを選ぶというケースが多いように思うのですが、私の経験からいわせていただくと、プロジェクトマネージャーは、プロジェクトマネージャーとしてのプロを育てるべきと思っています。
つまり、製品開発技術者とプロジェクトマネージャーは、求められるスキル、能力がまったく異なるということです。
製品開発技術者は、ひとつの技術の柱を深掘りしていくことが使命なのだと思います。
もちろんT型人間を目指すべきということで、一つの柱を持ちつつ、そこから横、つまり他の技術へ広げていくことで、技術者としての幅を広げていく必要があります。
プロジェクトマネージャーは、技術を知っていることが望ましいことは間違いないですが、ひとつの柱を重視する技術者ではなく、横の広がりを重視すること、かつ、短期間で横の幅を増強する力が求められます。
トヨタのチーフエンジニアが、技術マネージメントだけではなく、マーケティング、設計、生産、購買、営業、サービスまでバリューチェーン全体に知見を持つスーパーマンであるように、一流のプロジェクトマネージャーは、開発全体をマネージすることは勿論のこと、マーケティング、生産、購買など開発と繋がるバリューチェーンにも目を配らせる能力が求められます。
私自身、設計技術者としては、精密機器の電子回路設計しか経験していませんが、プロジェクトマネージャーとしては、精密機器以外に通信機器、車載エンターテイメントシステム、液晶テレビ、ハードディスク装置など、全く自分自身で設計経験のない製品のプロジェクトマネージメントを成功させています。
技術開発の本質はどんな製品でも変わりません。
大事なことは、
- 製品の原理原則を理解してすべてそこから発想すること
- 製品の顧客が満足する品質基準を熟慮すること
の2つだと思っています。
私が考える一流のプロジェクトマネージャーに求められる能力は、
- 知らない技術の原理原則を短時間で理解する能力(推測、仮説から本質を掴む)
- 疑問を持ち続ける能力
- 思い込みを排除する努力をする能力
- ものごとをシンプルに捉えて、シンプルに人に伝える能力
- ファシリテーション能力(複数の意見をまとめて議論を進める能力)
これらの能力は、持って生まれたセンスで差が付きますが、実は後からでもトレーニングによって鍛えられます。
いわゆるロジカルシンキング(論理思考力)を改善していくことで、技術者の考える能力、コミュニケーション能力など様々な能力向上になることを、コンサルタントとして活動する中で実際に経験してきています。
プロジェクトマネージメントだけではないかもしれませんが、自分の仕事を効率的に、そして常に本質を捉えて実行するために、ロジカルシンキングはとても大切なのだと思っています。
弊社のコンサル活動で、これまでのお客様からお声をいただく中で、論理思考強化についてのお褒めの言葉をたくさん頂戴しています。
ロジカルシンキング(論理思考力)の強化のポイントは、
- 問題をシンプルに的確に思い込みを排除して捉える
- 問題の原因とソリューションを明確に分けて考える
- なぜなぜ思考で深く掘りげる癖をつける
- 俯瞰して見ることと近視眼的に見ることを使い分ける
参考:論理思考力強化セミナー
製品の原理・原則を短時間で理解するツール
弊社では、トヨタのリーン製品開発手法の指導を通して、クライアント企業の製品開発プロセスの改革をお手伝いしていますが、その中で製品の原理・原則を分析するために「因果関係マップ」というツールを使っています。
因果関係マップは、製品における顧客価値に関する変数と、技術者が扱う設計変数とを因果関係で結んだ図になります。
この因果関係マップを使って、クライアント企業との活動で私自身、全く経験も知識もない製品の原理・原則を短時間に習得することができています。
顧客価値変数は、製品の使い方を知っていれば簡単に抽出できます。
技術の中身はわからないとします。
顧客価値変数を書き出して、クライアント企業のエンジニアに顧客価値変数に影響する技術要素は何かと質問をして、聞き出したものを図に書き込んでいきます。
面白いのは、製品の開発を何年もやってきたエンジニアが、このマップを作るのにわからないことが出てきて、頭をひねるケースが実にたくさん起きることです。
そう、わかっているつもりの人たちが、製品の原理・原則を知らないことに気づかずに仕事をしているのです。
そうやって、わかっている範囲で対象製品の因果関係マップを作っていく過程で、私自身、これまで未知だった製品の原理・原則を大分勉強させてもらいました。
因果関係マップについて解説した動画がありますので共有します。
プロジェクトマネージャーとしての必要能力の評価方法
結論を言うと、プロジェクトマネージャーの能力開発に必要なことは、ロジカルシンキングを鍛えることが最も重要で、それに付随していますが、製品の原理・原則など、わからないことをコミュニケーションから引き出し、理解しきる力だと思います。
ご自身のプロジェクトマネージャとしての能力をテストする方法があります。
自分が詳しくない技術分野について、会社の同僚、先輩、後輩が会議で報告しているときに、その内容を聞いて、瞬時に1つその会議にとって役立つ質問を思いつくかどうかです。
わからない技術分野で質問する、ということは技術の本質を理解する力を示しています。
ぜひ、自身の実力を試してみてください。
参考記事: 「優秀なプロジェクトマネージャーを継続的に生み出す方法」
リーン開発手法を活用したプロジェクト管理
開発手法というのは、企業特有のもので問題不出のケースが多いのですが、トヨタのリーン製品開発手法などは、アメリカの学者さんのトヨタ研究の成果として、トヨタの意思とは別のところで公知の情報となっています。
プロジェクトマネージメントのノウハウとしては、PMBOKなどの基礎知識体系や、現実の問題を掌握した上でのCCPMなどが様々な企業で活用されていますが、大事なことは、周知となっている手法やツールを真似してなぞることではなく、その本質的な意義や成功してきた理由を理解して、自社のプロセスに適用して独自のノウハウとして生かすことだと思います。
リーン製品開発手法からも、プロジェクトマネージメントのあるべき姿が学べます。
トヨタのリーン開発は、大まかにいうと3つの要素から成り立っています。
- チーフエンジニア制度
- セットベース開発
- A3報告書
特にチーフエンジニア制は、トヨタのプロジェクトマネージャーのあり方、強いリーダーによって勝ち続ける組織を維持する意味を教えてくれると思います。
トヨタのリーン製品開発手法について、手法の解説と実践方法について弊社主催のセミナーを開催しています。
チーフエンジニア制度については、まさにプロジェクトマネージメントの究極のノウハウです。
様々な企業が、チーフエンジニア制度を真似しようとしますが、形だけの模倣に終わって本質的な成果が得られていません。
トヨタのチーフエンジニアと同レベルのプロジェクトマネージャーを育成するのは、10年単位の仕事だと言われています。
トヨタ以外の企業で、プロジェクトマネージャーの質をトヨタのチーフエンジニア制度に近づけるためには、
- プロジェクトマネージャーを技術者の延長でなく、特異な存在として育成すること
- トップの強力な推進で長期ビジョンとともに育成すること
- プロジェクトの本質である「不確実性」を真摯に取り扱うプロセスを構築すること
が絶対に必要です。
セットベース開発、A3報告書は、「不確実性」による様々な形のリスクを取り除くために、「知識資産」ということを開発プロセスの中心に置いて、「知識」を積み上げていく、あるいは一度築いた「知識」を再利用することで「不確実性」を小さく抑えることを特長としています。
プロジェクトマネージャー(トヨタではチーフエンジニア)は、「知識」によって新しい顧客価値を創造し、プロジェクト計画に対する「不確実性」を取りのぞきながら、顧客に新たな価値よ満足度を届けます。
リーン開発だけがソリューションではありませんが、プロジェクトの本質である「不確実性」とうまく付き合えるプロセスと管理手法、そして管理できる人材を作らなければ、プロジェクトの質は上がっていかないと思います。
一流のプロジェクトマネージャーになるためには、自身の育成とともに、会社のプロジェクトに対する改革も進められる人材にならなければならないと思います。
知識と行動から導かれる実践、それを確かな方法で行える人材こそ、一流のプロジェクトマネージャーと言えるのだと思います。
投稿者プロフィール
- フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。
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フューチャーシップ(株) 代表取締役
技術者のキャリアアップ請負人。日米複数の製造業で製品開発現場30年以上の経験、エンジニア育成の経験をもとに、エンジニアの活性化を通して日本企業の再生を目指し奔走中。