ジョブ理論のジョブの本質を理解し本当の顧客指向を身につける

 

顧客指向と言われてもイノベーションはなかなか生まれない。本当の顧客指向を学びたい!

当たり前のように使われる「顧客指向」、「顧客起点」などの言葉ですが、単に顧客の言葉(ダイレクトボイス)を聞くだけでは、本当の意味でのイノベーションは起きない気がする。どうすれば本当に顧客が求めている製品やサービスを生み出すことが出来るか知りたい。

 

顧客の製品に対するニーズではなく、顧客が成すべき仕事(Jobs to be done)、つまり顧客のジョブに着目したジョブ理論の考え方を身につけることで、真の顧客指向を身につけることができます。

 

 

 

ジョブ理論とは?

 

ジョブ理論は、2017年にハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授の「ジョブ理論」が日本で出版されたことで、日本企業に紹介されることになりました。

ただしクリステンセンの「ジョブ理論」の前に、Anthony Ulwickが、著書”What Customers Want", 及び”Jobs to be done”によってジョブ理論の基本的な考え方を公開しています。

また、Alan Klementの”When Coffee and Kale compete"やクリステンセン教授の教え子であるStephan Wunkerらによる”Jobs to be done"なども出版されており、欧米では2017年以前からジョブ理論の考え方を使って成果を出す人たちが出始めています。

クリステンセンの「ジョブ理論」の原本は、”Competing against luck"というタイトルで、つまりジョブ理論とは、幸運に打ち勝つための方法論として発表されたものなのです。

どういうことかというと、クリステンセンらが言っているのは、世の中でこれまで生まれた多くのイノベーションは、実は幸運の賜物、つまりヒットするかどうかは運であったということなのです。

プロダクトアウト、つまり作り手のロジックで生み出したこれまでのイノベーションを否定しているのではありません。

もっと高確率でイノベーションを生み出すべきであるというのがクリステンセン教授らの想いなのだと思います。

イノベーションの確率を上げるために、顧客が本当に求めているものを見つける手法というのが、ジョブ理論の目指すものなのです。

 

2種類のジョブ理論

ジョブ理論という言葉は、クリステンセンの日本語版の出版によって生まれたもので、元々はJobs to be done法とかジョブズ法などと言われていました。

また、この考え方を最初に導き出したと言われるAnthony Ulwickの手法は、別名アウトカム・ドリブン・イノベーション(ODI)などとも言われています。

顧客が成すべき仕事、つまりJobs to be done(JTBD)を捉えるところは同じ考え方なのですが、そこからイノベーションへ導いていくアプローチがUlwickとクリステンセンとでは少し異なっています。

詳細は、別記事「2種類のジョブ理論を使いこなす」を参照ください。

簡単に違いを説明すると、Ulwickのジョブ理論は既存製品の改善、改良に向いている手法と言えるかもしれません。

ボーイングやボッシュなどが活用しているとも言われていますが、顧客が製品と向き合うときのジョブを捉えて、ジョブの結果に対する期待、つまりアウトカムに対する重要度と充足度を測っていくことで、顧客の隠れた要求を見つけていきます。

ジョブのアウトカムを使うことからアウトカム・ドリブン・イノベーション(ODI)と言われますが、私どもは、既存製品の改良に使いやすいというところから、JTBD-Product(JTBD-P)と呼ぶことにしています。

それに対してクリステンセンやAlan Klementの著書で解説されているジョブ理論には、明確なフレームワークが存在しません。

著書にはジョブ理論の考え方によって成功した企業の事例が多数紹介されていて、それらの事例から考え方を吸収できるようになっています。

新しいコンセプト製品を生み出す事例、うまく行っていなかった事業を軌道に乗せた事例、新規事業を起こした事例などが多く紹介されていて、特にAlan Klementの本では、スタートアップ企業の成功事例が多数出てきます。

私どもは、UlwickのアプローチとクリステンセンやKlementの考え方を区別するために、こちらのアプローチをJTBD-Business(JTBD-B)と呼んでいます。

 

クリステンセンのミルクシェークの話

クリステンセン教授は、「ジョブ理論」や「イノベーションの解」などの著書や、あるいは彼の講演の中でミルクシェークの販促についての話をよくします。

有名な話なのでご存知ない方はこの機会に覚えておいてください。

ジョブ理論をとてもわかりやすく表現している話です。

この話をよく理解できれば、ジョブ理論は半分くらいは理解できたことになるかもしれません。

 

あるアメリカのファーストフード・レストランで、ミルクシェークの拡販を行うためにマーケティングチームを組織して市場調査を行い、顧客を年齢、性別、嗜好などで層別して好みを分析し、味や見た目などを変えて販売してみたものの、売上には全く変化が見られなかったそうです。

そこで、チームは店の前でミルクシェークを買っていく人たちを一日中観察したそうです。

買っていくのは何時ころか、どんな服装をして誰と一緒か、ミルクシェークといっしょに何かを買っていくかなどをつぶさに観察したそうです。

そこでわかったのは、ミルクシェークが売れる一つのピークは朝の8時ころ、ビジネスマン風の人が一人で来て、ミルクシェークだけを買って、すぐに車に乗り込んで去っていくということでした。

次の日、今度はミルクシェークを買った人に直接インタビューをしたそうです。

「どんな仕事をするためにミルクシェークを買ったのですか?」とは聞けないので、

「以前、同じような状況のときにミルクシェーク以外にどんなものを買いましたか?」

「そしてそれは満足できる結果になりましたか?」

というような質問をします。

ミルクシェークを買っていった人たちは、車で通勤するビジネスマンで、会社までのドライブ時間を快適に過ごすために例えばバナナを買ったことがあるけれども、バナナはすぐに食べ終わってしまい満足できなかった。コーヒーを飲むこともあるけど、コーヒーも比較的すぐに飲み終わってしまう。

チョコレートは手がべたべたしてしまい良くなかった。

ベーグルは味がなく、ジャムとかを運転中には使えないし、あまりよくなかった。

スニッカーズバーを食べたこともあるけど、罪悪感で二度とやるつもりはない。

その点、ミルクシェークはドロドロしていて飲むのに少なくとも20分くらいかかり、カロリーも適度でお腹もちも良く、カップホルダーに入って運転しながらでも飲みやすく気に入っている。

などの答えが返ってきたそうです。

 

この話からわかるのは、車通勤のビジネスマンは、長いドライブの退屈さをしのぐために(これがジョブ)何か口にするものを採用したかった、ということです。

そして、このジョブに対するソリューションは、ミルクシェーク以外にはバナナ、コーヒー、チョコレート、ベーグルやスニッカーズバーなどがあるということですが、それぞれの問題点などがあって、結果としてミルクシェークが選ばれているということです。

ここで一つ重要なことは、ジョブの観点から見ると、ミルクシェークの競合は他社のミルクシェークではなくなるということと、顧客はジョブを片付けるための複数のソリューションから、もっともジョブをうまく片付けてくれるものを採用しているということです。

 

ジョブ理論は、製品開発者が顧客の立場にたって、製品のありなしに関わらず、本来何をしなかければならないか、ということを起点にして製品のあるべき姿を考えるための理論です。

ですから、まずは製品のことを頭から離して、自分が顧客の側に100%立つことで、本当の顧客起点が生まれるということなのです。

ジョブ理論のジョブは、顧客が成すべき「仕事」です。

ジョブの本質を掴むと、ジョブ理論をさらに深く理解することができるはずです。

 

参考記事:「ジョブ理論とは?どう実践するかわかりやすく解説します

 

ジョブとは何かを理解する

 

ジョブは「やるべきこと」、「やりたいこと」と「いつかやりたいこと」

ジョブ理論を理解するためには、まずはジョブとは何かを理解する必要があります。

ジョブはシンプルに言うと、「顧客がやらなければならないこと」ということですが、慣れないと少しわかりづらいかもしれません。

「やらなければならないこと」ということは、製品とは関係なく例えば日常であるべきこと、ということになります。

ミルクシェークの話では、ミルクシェークとは関係なく、ビジネスマンは毎日、車で会社まで通勤します。

これがやらなければならないことになり、また、この通勤するというジョブの他には、「車での通勤時間を快適に過ごす」ということも毎日やるべきことということになります。

「やらなければならない」を過剰に考えないようにしてください。

通勤するは本当にやらなければならないことで、通勤中を快適に過ごすことは、どちらかというと「やりたい」ことになります。

でも、これも「やるべきこと(Jobs to be done)」と考えます。

また、「やりたいこと」は、更に発展させて考えると、「いつかやりたいこと」という心の奥にある静かな欲求のようなものも含みます。

クリステンセンはこれを”Progress”という言葉で表現してます。進化への欲求と捉えても良いかもしれません。

また、Klementは、”New Me"、つまり「新しい私」と表現しています。

非常に興味深い話で、ジョブ理論を使う時には、日常でやるべきこと、人がやりたいと思うこと、そして人の心に内在する「進化への欲求」や「新しい自分への欲求」などをしっかり使い分けることが重要なのです。

ジョブをまとめると

  • 日々やるべきこと
  • やりたいと願っていること
  • いつかやりたいと心の中で思っていること

ということになります。

 

 

ジョブは不変、ソリューションが変化し続ける

ジョブを捉えるときの手掛かりになることとして、ほとんどのジョブは昔から存在するのだということです。

時代が変わり、環境が変わってまったく新しいジョブが生まれることも皆無ではないのですが、ほとんどのことは昔から存在するのだと考えてください。

新たに生まれたジョブと思ったものは、もしかするとソリューションを含んだものになっているかもしれません。

ジョブとソリューションは別のものです。

ジョブをこなすためにソリューションがあるわけです。

一世を風靡したウォークマンという製品があります。

個人が音楽を持ち歩いて楽しむという世界を作ったわけですが、「外で音楽を聴く(聴きたい)」というジョブは昔からあったはずです。

野外バンドを聴く、というのがかつてのソリューションですね。

ラジオで音楽を聴く、というのもソリューションでありました。

ラジカセを持ち歩いていた人たちもいましたよね。

そこに登場したのがウォークマンであり、そこからiPodになり、今はスマホということになっています。

「外で音楽を聴く(聴きたい)」という不変のジョブに対して、ソリューションが時代とともに進化しているわけです。

ジョブ理論からイノベーションを生み出す考え方は、まさに不変のジョブを見つけて、そこに新しいソリューションを持ち込むことなのです。

 

ジョブとニーズの違い

よく質問されるのは、ジョブとニーズの違いは何ですか?ということです。

まず考えてみてください。

「ニーズ」と言った時点で、自分が担当する製品やサービスを意識していませんか?

そして無意識のうちに、顧客に対しても自分の製品やサービスを考えた上での要求を求めている。

これが「ニーズ」なのだと思います。

つまり、製品やサービスに対する顧客の要求、要望のようなことが「ニーズ」ということなのだと思うのです。

これに対して「ジョブ」は、製品やサービスとは直接関係しないものに対してもたくさん存在します。

むしろ製品やサービスと少し離れたところにあるジョブを考えることで、大きなイノベーションに繋がっていきます。

一方、ニーズにも顕在ニーズと潜在ニーズという2種類があると思います。

顕在ニーズは、「お客様の声(Customer Voice)」と言い換えてもいいかもしれません。

それに対して潜在ニーズは、顧客自身も気づいていないニーズということになります。

クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」という有名な本がありますが、この中で顧客のダイレクトな要求を聞き続ける大企業は、顧客ニーズを反映しつつ製品を継続的に進化させていくのですが、これを持続的イノベーションと言っています。

それに対して、小さな企業が顧客の要求とは無関係に新しい製品を出してきて、市場をひっくり返すことがあります。これを破壊的イノベーションというわけです。

事業を安定的に継続するためには、持続的イノベーション、つまり顧客の声を聞くことも必要ですが、市場に新たな価値を提供する破壊的イノベーションを起こすためには、顧客の直接の声を聞き過ぎてはいけない、という教訓かと思います。

お客様の声は大事ですが、大きなイノベーションを狙うためには、顕在ニーズよりも潜在ニーズに目を向けるべきで、実はこの潜在ニーズを見つけるために、ジョブを捉えることが非常に有効になるのです。

 

本物の顧客指向を身につける

 

顧客指向の究極の目的は、顧客価値を高める製品やサービスを顧客に提供することです。

ここで、次のどちらがより高い顧客価値に到達する方法かを考えてみましょう。

  • 顧客の口から直接要求を聞く
  • 顧客も気づいていない新たな価値を見つける

後者の方が顧客に大きな価値を届けられる可能性が高くないですか?

気をつけたいのは、あくまでも可能性です。

潜在ニーズを探索するアプローチが必ず成功するわけではありません。

そして顧客の声というのも無視すべきではありません。

しかしながら、少しでも顧客価値を高めて、顧客に大きな満足度を提供するためには、潜在ニーズを見つける道に重点を置いた活動をすべきだと思います。

 

製品軸に意識が残る罪

本物の顧客指向を身につける第一歩は、顧客指向と言いながら製品に意識を残してしまうことによる「思い込み」を排除することです。

特にエンジニアという人達は、製品のことを良く知っています。

そして製品のことをとても大事だと思っています。

良い製品を作りたいという強い願望も持っています。

なので、顧客指向や顧客起点と言いながら、どうしても思考が製品から離れられないのです。

また、製品開発のための顧客指向であれば、製品から思考を離す必要はないとも考えてしまいます。

そして、こうやって思考バイアスが働いてしまうのです。

プロダクトアウトは否定されるべきものではありません。

これまでにたくさんの成功事例もあります。

しかしながら、大事なことは今まで以上にイノベーションの成功確率をどうやって上げるかということなのです。

そのために、一旦、製品軸から思考を外して、完全に顧客の立場に立ってジョブを捉え、ジョブに対するソリューションの存在を意識して、そこから新たな顧客価値を発想していくことが、真の顧客指向であると考えています。

 

人間の進化への欲求に応える企業価値

ジョブとは何か、という所で申し上げたように、ジョブ理論でいうジョブは、

  • 日々やるべきこと
  • やりたいこと
  • いつかやりたいこと(進化への欲求、新しい自分)

ということです。

特に3番目の進化への欲求、新しい自分の発見に対する欲求は、満たされたときの満足度は非常に高くなります。

そして、この進化への欲求を満たしてくれる企業に対して強い信頼感を持つようになるのです。

ブランドというのは、このような顧客からの信頼を積み重ねることによって作られているのだと思います。

マーケティングの神様と言われるフィリップ・コトラーが提唱するマーケティング3.0の世界では、これを顧客から見た企業の価値と捉えます。

コトラーは、企業が顧客から信頼を得てブランドを確立するためには、社会貢献と収益の両立を図るべきとも言っています。

企業の掲げるミッションや経営方針と、製品やサービスの進化の方向性が一致することで、顧客は企業に価値を感じるということです。

 

弊社が提唱するジョブ理論、かつJTBD-Bのフレームワークは、マーケティング3.0の企業価値向上と顧客指向を組み合させた画期的なフレームワークです。

詳細は、「ジョブ理論を実践するためのフレームワークを教えます」を参照ください。

 

顧客指向は組織に付けるもの

製品軸から完全に顧客軸に思考を変えるには、自身の思い込みに気づくことが第一歩です。

製品に対する愛着は当然あるはずですが、製品への愛情と顧客指向を切り離して考えてみましょう。

また、顧客指向は個人が持っているだけでは役に立ちません。

組織全体として顧客指向、あるいは顧客思考をつけていく必要があります。

企業全体の方向性、つまりは企業ミッション、経営方針を顧客目線で設定することは勿論のこと、顧客が感じる企業価値と製品やサービスの価値を一致させる製品開発の考え方を組織として持つようにしていきましょう。

 

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